医学部進学特別対談

教養豊かな医療人の育成を

東海地区有数の進学校で、東京大学・難関大学はもとより医学部にも多くの合格者を出している滝中学校・滝高等学校(愛知県江南市)。2026年11月に迎える創立100周年に向けて、「質実剛健」「勤勉力行」「報恩感謝」の建学の精神を礎にして新たな教育活動をスタートさせている。医療人を志している医学部受験生のためにいま、どのような教育が進められているのか。中島政彦学園長と医系専門予備校として全国一の合格実績を重ねている「メディカルラボ」本部教務統括、可児良友氏に語っていただいた。

学校法人滝学園滝中学校・滝高等学校 中島政彦 副理事長・学園長

 

2012年学校法人滝中学校・高等学校 校長就任、

2021年学校法人学園長就任。2018年から

働き方改革を行い、新しい「授業後の学習の場の創設」や

「持続可能なクラブ活動のあり方」を確立する。

働き方改革について全国の教育研修会で

講演をおこなっている。

現在、NPO法人宇宙まるごと創生塾飛騨アカデミー理事、

愛知牧水顕彰会会長。

医系専門予備校メディカルラボ 可児良友 本部教務統括

 

1991年から大手予備校で受験生を指導。

2006年、「メディカルラボ」開校に責任者としてかかわり、

現在は本部教務統括を務める。医学部受験に関する著書を

多数執筆、医学部受験をテーマに数多くの講演を行っている。


◆滝学園キャッチフレーズ

「滝にきたら『力』がつく!」

可児 まず滝学園の教育目標からお聞かせください。

中島 一人ひとりの生徒が、誇りと喜びと満足の得られる学園を創造し、総合力に秀でた魅力ある生徒の育成を目標としています。そして「知力」「体力」「教養」のバランスの取れた生徒育成を目指しており、特に宗教的バックボーンを持たない本校は「教養」を重視しています。生徒には多様な分野への興味、関心を深めて、「周りの人間にいい影響を与える人になってほしい」という思いからです。

 もちろん進学校なので、生徒の個性を見極め、志望大学に進学できるよう、確かな学力を身に付けさせています。同時に様々な分野で中心になって活躍できるような人間力の育成も目指しています。生徒たちが進んでいく分野でかけがえのない人間になってほしいですね。やはり「滝に来たら『力』がつく」という、生徒の期待を裏切らず、高い能力を身に付けられるようにと考えています。

 

可児 愛知県にもいろいろな進学校がありますが、滝学園は、生徒をぐっと巻き込んで力をつけさせているような感じがします。

中島 確かに熱心な教員が多いと思います。私は元々数学の教師で、かつては各種の試験で目標点が取れなければ追試、追試で追いまくるというような、体育会系的な「絞り方」をしていました。

 しかし現在はそういう外的な動機付けだけではなく、生徒の内部からモチベーションがあがるような学習環境を作らなくてはいません。習熟度別のクラス編成、コース別、土曜講座、滝学、滝教育研究所、中1生、中3の英語プログラム等はそのためです。

可児 時代にも、生徒のニーズにも応じた様々な工夫をされているのですね。

 

◆創立100周年に向けて

可児 その他にも、創立100周年に向けて色々な工夫されていると聞きましたが。

中島 90周年のときには、生徒一人ひとりの学習、生活、健康、成績等を集めた生徒カルテを管理する生徒情報センターを作りたいと思いました。生徒の良さを多角的に見ることで、その生徒の特長を正確に捉えて伸ばそうと。そのために、生徒情報を全体で共有できるようにと考えました。入学後の様々な情報を蓄積し、滝学園全体でサポートするための仕組みです。この構築は結構難しく、いまは「ブレンド」というソフトで7割程度は実現しています

 このほか教育事務職を積極的に採用しています。キャリア教育やメンタル面のサポートについてはそれぞれの専門家の協力を得ることで、教師の本来の仕事である生徒と向き合うための余裕を作り出していきたいのです。

可児 教師ではない、学校外での社会経験がある方々が学校内に入ると、面白くなりますよね。先生方の視野も広がります。

中島 はい、多様な経験をした方が入ってくると、教師にも刺激になる部分が多く、それを生徒に還元できる取り組みになっています。

 

◆難関大学や医学部への高い合格率を実現するための

滝学園の特徴について

可児 難関大学や医学部への高い合格率を実現するための滝学園の特徴を教えていただけますか。

中島 基礎学力の定着を重視した、教師からの指導だけでなく、生徒たちが互いに教え合うことも大切にしています。そのための学習室もあります。また廊下にも生徒が教え合うための黒板があり、これらを積極的に活用しています。これは絶対に効果が出ていると思います。教え合うことで互いに理解が深まり、高いレベルの学びにつながります。

 また、共通テストでは言語力、読解力が重視されていますが、それに対応するには、知的なバックグランドを無視できません。さらに医学部では、人の命に関わるため倫理観や協調性、社会性などが求められます。こういったことを生徒たちに身につけてもらうために、土曜講座などで各界の専門家から生徒たちに発信してもらっています。これも生徒自身に深く考えさせる環境づくりの一つになっています。

可児 この土曜講座、興味深いですね。もう少し詳しくお聞かせください。

中島 30年ぐらい前、学校週5日制が導入されました。東海も関東も週5日制に切り替える学校が多かったですが、これを機に当校では月2回土曜日に学校を開いたのが土曜講座のはじまりです。東大対策や京大対策の名称をつけた講座を設けたり、逆に学力不振の生徒のための補習授業を実施したりしました。教科の授業だけでなく、色々な講演も行っています。医療関係の講演を実施するときには、医療活動についての表面的な話だけでなく「命」というものへの「畏敬」を伝えていく事をできる限り主眼としています。

 また、外部の先生に来ていただく土曜講座を始めたのを記念に、できるだけビッグな講演にしたいとの思いから、MIT(マサチューセッツ工科大学)のノーベル物理学賞受賞者のジェローム・フリードマン氏を招きました。私たちが直接、ボストンを訪ねてお願いすることで実現できました。その後、毎年4月に記念講演会を開いていますが、23回目になる次回にはNHKの大河ドラマ「光る君へ」の脚本家、大石静さんに来てもらうことになっています。可児 すごいですね。他にも滝教育研究所という取り組みもあるそうですが、これについても詳しく教えてください。

中島 滝学園では2016年、90周年事業の一環として株式会社滝教育研究所も設立しました。学校の授業が終わった後、さらに深い教育・研究をしていくことが目的です。本校の生徒と教師が学び合うことをめざしています。自習室、自主ゼミも設置しています。学校法人にはいろんな制約があるので、教員の働き方改革との関連から株式会社の形式にしたのですが、この形で各種講座やクラブ活動を行っているところは珍しいと思います。

可児 中高法人が株式会社を作っているところは珍しいですよね。 

中島 当初、「株式会社=金儲け」と考える教師もいて、戸惑いや反発もありました。しかし、外部の人の応援や生徒たちの頑張りもあって、いい結果がでており、いまも継続しています。

可児 すばらしい取り組みですね。よくわかりました。

 

本館 時計台 (国の登録有形文化財)

 

◆理Ⅱコース(医師薬者志望コース)の特徴について

可児 医学部志望の生徒向けにはどのようなことをされているのですか。

中島 高2で文系、理系クラスに、高3で文系、理Ⅰ(理・工・農系)、理Ⅱ(医・歯・薬系志望者対象)に分かれて授業を受けます。医学部受験では人間性も重視されますが、それは小手先の指導でどうなるものではありません。中学から高校の6年間にどのように学んできたか「学びの履歴」が問われます。本校では中学時代から好奇心や興味関心を育てる教育活動に力を入れています。

 理Ⅱの医・歯・薬系では、自らの引き出しにどれだけのものを整理し、うまく引き出せるのかが求められています。男子校、女子校、共学校にはそれぞれメリット、デメリットありますが、男女で教え合う共学だからこそ、こういった力がつけられると考えています。それも共学校ならではの良さだと思っています。

可児 共学校のメリットを生かすことで、男女共にそれぞれの能力を伸ばせそうですね。

 

◆生徒のモチベーションを高めるために

可児 私たちメディカルラボでは全てマンツーマンで指導しているので、生徒のモチベーションを高めることがきめ細やかにできていると思いますが、滝学園では特に取り組んでいることがありますか。

中島 一般の学校よりも面談の回数を多く取っています。教師と生徒・保護者が緊密に情報共有することで、生徒自らの希望に力を発揮できる場をつくることができると考えています。前述の生徒カルテの精度を高め活用することも含めて、生徒のモチベーションを高めるためのサポートはしっかりできていると思います。

 

◆医学部を目指す生徒・保護者へのメッセージ

可児 最後に、医学部を目指しているみなさんにメッセージをお願いします。

中島 みなさんが医療人として活躍する未来では、おそらく医療にもAIが深く入りこんでいるでしょう。ただ忘れてはいけない事は、医師は人と向き合う姿勢が大切だということです。人と向き合うわけですから人が好きでないといけません。人を理解するために、いろんな方と積極的にコミュニケーションを取っていってほしいです。勉強はもちろん大事だし、やるべきことなのですが、それだけでなく、いろんなことを体験してほしいですね。それが人間の基本的なベースになります。それがなくては良い医師にはなれません。滝学園では学習面はもちろんのこと、人間として成長できるようしっかりとお手伝いしていこうと思っています。

可児 素晴らしいですね。本日はどうもありがとうございました。

 

100周年記念館

学校法人滝学園 滝中学校・滝高等学校

〒483-8418 愛知県江南市東野町米野1番地

 中学・高校ともに男女共学。 中高一貫教育を実施し、高校からの入学者も受け入れる併設混合型中高一貫校。2024年度の大学入試結果では東大10名、京大11名、名大44名、国公立医学部医学科・歯学部・薬学部の合格者数は68名(既卒者を含む)。

 

医系専門予備校 メディカルラボ

 北海道から九州まで全国26校舎ネットワークを展開している河合塾グループ医系専門予備校。完全個別の「授業・カリキュラム」「受験戦略」「担任制度」などの合格メソッドで、2024年度入試では医学部医学科合格者数1226名と医系専門予備校では合格者数1位を10年間続けている。