ストレス疾患と現代人
~心のケアについて考える~
労働環境の改善を目指した「働き方改革」の関連法案が2019年4月から順次施行されていますが、法案の大きな柱となっているのが長時間労働の是正です。この背景には過剰労働によるストレス、それに起因する過労死などが大きな社会問題になっていることがあります。ストレス疾患と現代人についてまとめました。
多くの人が職場でストレスを感じている
メンタルヘルス(心の健康、精神的健康)が注目されるようになったのは1980年代
以降のことです。2001年の第一回『産業人メンタルヘルス白書』(日本生産性本部)では「職場ストレスは精神健康に大きな影響がある」と明記されました。
厚生労働省が10人以上を雇用している約14,000の事業所で働く人々、約18,000人の派遣労働者を対象に実施した調査では、職場で強いストレスを感じている人の割合はここ数年50~60%前後で推移しており、半数以上に及びます。内訳は「仕事の質・量」が53.8%ともっとも多く、「仕事の失敗、責任の発生」38.5%、「(セクハラやパワハラを含む)対人関係」30.5%などが続きます。
一方、社員のメンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は56.6%(前回平成27年調査では59.7%)となっており、やや減少傾向にあります。
*厚生労働省:2019年「労働安全衛生調査(実態調査)」より
ストレス疾患は何をもたらすのか
ストレス疾患は不眠、軽度なうつ病、パニック障害、乗り物や人込みへの不安、過
度の緊張感、出社意欲の減退など日常生活においてさまざまな影響を及ぼします。よ
くストレスを抱えやすいタイプとして「まじめで几帳面な人」「頑固で厳格な人」「内
向的でおとなしい人」「取り越し苦労の多い人」が挙げられますが、ほとんどの人はい
ずれかのタイプに属するのではないでしょうか。それだけストレスは身近なものである
といえそうです。
日常生活におけるストレス対策としては、
十分な睡眠をとること食生活(とくに朝食をしっかり摂ることは交感神経を活発にしてストレス耐性を高めます)身体の各部分をリラックスさせる(入浴が効果的)腹式呼吸を意識する(全身の緊張がほぐれます)
など、さまざまな解消法が知られています。
メンタルクリニックが果たす役割
とはいえ、ストレスの解消は容易なものではありません。
ストレスがたまるとどうしていいかわからない精神状態をもたらしてノイローゼを
生み、最悪の場合は自殺に追い込まれるケースもあります。そうした悲劇を防ぐにはス
トレスが生まれやすい職場環境にある人、日常的にストレスを自覚している人への心の
ケアがきわめて重要なものとなります。
そこで注目されるようになったのが心療内科、つまり医療者として心のケアに取り
組むメンタルクリニックです。
心療内科を掲げる医療機関の数は1990年には約1,000でしたが、2014年には3,890
でほぼ4倍となりました。この数字はメンタルなケアを必要とする人々が急増したことを意味します(数字は厚生労働省「医療施設調査」より)。
それぞれの医療機関では受診者に対して「どういう状況でストレスが生じることになったのか」「仕事によるものか、人間関係のせいなのか」「職場の環境に問題があるのか」など、その人が置かれている状況を把握するために多角的な視点からヒアリングをするほか、受診者本人の性格的な傾向、そこから考えられるさまざまな要因をカウンセリングによって聞き出し、本来の「自分」を早く取り戻せるようにサポートし、心のケアを
行います。
そこで基本となるのは受診者への「思いやり」「気配り」「細かな配慮」「優しさ」です。いずれも心療内科に携わる医師に欠かせないものですが、それは同時に受診する人が求めるものでもあるでしょう。そうした医師と受診者との相互理解と交流こそが心のケアに結びつくものと言えるかも知れません。
仕事が多様化し、職責への負担が大きくなる中、今後もストレスを抱える人が多くなることが予想されます。これまでにない気持ちの違和感、日常生活のリズムの狂いを感じる…そんな時はメンタルクリニックへの積極的な受診を考えたいものです。