小児の甲状腺疾患や低身長、炎症性腸疾患、夜尿症などに特化して専門的な医療を提供
望月貴博先生…大阪市中央区「希望の森成長発達クリニック」
(診療科目・小児科/内分泌内科/胃腸内科)
◆慢性疾患のお子さんたちがしっかり治療を続けられるクリニック
小児の内分泌疾患、炎症性腸疾患、夜尿症という、三つの領域に特化して専門的な医療を提供しています。内分泌疾患は甲状腺や副腎の病気、低身長といったホルモン治療を必要とするもの、炎症性腸疾患はいわゆるクローン病や潰瘍性大腸炎などがあります。これらは慢性疾患ですから、ずっと継続治療を続けるなど長い取り組みが必要です。患者数が多いのは低身長と夜尿症で、大阪府下だけでなく他府県から来られる患者さんもいます。
一般的な小児科とは異なり、風邪の診療や予防接種などは、ほとんど行っていません。ただ、慢性疾患のお子さんは、ほかの医療機関で予防接種を断られたりすることもあるので、そういったケースでは当院で行います。慢性疾患のお子さんは、きちんと治療していれば、元気に過ごされることが多いです。平日の昼間は学校に行っていますから、多くの患者さんは夕方以降や土曜日にいらっしゃいます。高校生や予備校生の患者さんもいます。日常生活をきちんと続けながら継続的に治療を受けてもらえるということが大事だと思っています。
ひと昔前、低身長の成長ホルモン治療などは大きな病院で行うものでした。しかし、そういった治療もクリニックの外来で実施できるようになってきています。甲状腺の病気であるバセドウ病も、かつてなら入院してもらったような症例でも、「三日後に来てください」と言ってお薬を出して外来で治療できることがあります。入院しても安静にしておくだけであれば、学校を休んで自宅で過ごす方が子供たちのストレスは少なくなります。
◆開業したことで継続的な診療が可能に
当院は、私が開業する以前から継続して診療している患者さんもたくさん来られています。大阪市立総合医療センターや大阪警察病院に勤務していたころから内分泌疾患や炎症性腸疾患の治療に取り組んでいましたので、長い方では20年ほどのおつきあいになります。当院では患者さんが希望する限り何歳になっても診療しています。
小児の慢性疾患は、移行医療(トランジション)という課題があります。普通、小児科で診療を受けているお子さんたちは、大人になったら小児科ではなく成人科に通うことを勧められます。これは転科・転院でありトランスファーと言います。多くは病院の受診者数や病棟の制約のために小児科を受診している患者さんたちの多くは、ある時期になったら転科や転院をすすめられます。しかし、そこに私はずっと疑問を持っていました。移行医療とは、患者さんが子供なら医師の説明を聞くのも治療方法を決めるのも親ですが、大人になれば自分で判断して医療を受けるように変化することが最も大切な点だと思います。本人が選んで受診することができるクリニックであり続けることが私の希望です。
「小さいころから診てもらっている先生に、これからもお願いしたい」という患者さんがいるのに、病院や医者の都合で「別のところへ行ってください」というのはおかしいと思うのです。お子さんの進学や就職などは仕方ないとして、医者を選ぶのは患者さんのはずです。私も病院に勤務していたころは患者さんから「転勤しないでください」「遠くへ行かれたら困ります」などと言われ、何とかしたいと思っていました。
そこで、平成29年2月に当院を開業し、慢性疾患の患者さんを継続的に診ていくことが可能になりました。森ノ宮は便利な場所ですし、もう動くことはありませんので、患者さんたちにも「ずっと診てもらえるのですね」と喜んでいただけました。
ですので、このクリニックは10歳の子供も30歳の大人も来てもらえる雰囲気の内装にしてあります。例えば、休憩スペースには色とりどりのマットではなく畳を敷くなど、こだわっています。
◆必要に応じてさまざまな分野の専門家への紹介をコーディネート
近年は医療の細分化が進んでおり、コーディネーターの存在が重要だと考えています。例えば、ターナー症候群というホルモン治療を行う病気があります。成人期にもさまざまな合併症の可能性があり、定期的にいろんな検査を受けてもらうなどフォローアップが大切です。成人になって婦人科にホルモンの薬をもらいに行っているという患者さんも、甲状腺や心臓の検査が必要なのです。しかし、一般の婦人科の先生にそこまで求めることはできません。
婦人科の先生は卵巣や子宮、循環器内科なら心臓を診るのが専門です。そこで年1回でも当院に顔を出してもらい、トータルコーディネーターとして私を利用してもらえばよいと思っています。私はターナー症候群という疾患の専門家ですから、その人にとってどのようなフォローが必要かを考えて診療を行います。そして、当院で対応できないようなことがあれば、きちんと専門の先生を紹介します。
積極的に学会や研究会へ参加しているので、多くの先生方とおつきあいがあり、さまざまな分野でスムーズに専門家の先生を紹介できます。
特殊なニーズに応えるクリニックだということもあり、大阪や神戸、奈良など近畿地方だけでなく、東海・中国・四国、九州から来られる患者さんもあります。
◆まだ全国的に珍しい小児の専門診療クリニック
当院は、一般的な小児科が行うような風邪の診療や予防接種などを行わず、ほぼ専門分野に特化しています。成人の医療では糖尿病や甲状腺疾患などの専門クリニックはたくさんありますが、小児医療では全国的にも珍しいでしょう。専門分野おいて特殊なニーズに応えられる良質な医療を提供しつつ、トランジションの課題にも対応できる小児科のクリニックとして、モデルケースにしたいと思っています。
専門分野に特化するためには努力が必要ですが、その領域を深く掘り下げることができます。私自身としても興味のある分野ですから、モチベーションを持って取り組んでいます。専門分野で良質な医療を提供するには、学会や研究会に参加して常に新しい知識を勉強することも必要です。開業してからは、小児科すべてを幅広くカバーするのではなく、自分の専門分野に絞って注力できるようになりました。
例えば、低身長の症例でいえば、私が勤務していた大阪市立総合医療センターでは年間50例ぐらい成長ホルモンの検査を行っていました。現在、当院では年間150例ほど検査しているので、統計学的なデータを蓄積して学会発表を行うなど、医療の向上、患者さんへのフィードバックにつながります。
専門的な領域に特化していることもあり、国立成育医療研究センターや大阪母子医療センター、各地の大学病院などの医療機関から紹介されていらっしゃる患者さんも少なくありません。
◆ずっと引き継がれていくような存在に
このクリニックを開業するにあたり、私の名前をつけなかったのは理由があります。それは、いずれ二代目の院長に引き継ぎたいと思っているからです。慢性疾患のクリニックですから、私が引退した後も誰かが診療を続けなれば、患者さんが困ってしまいます。ただ、特殊な分野なので誰でもできるわけではありません。興味を持って勉強している若い先生にお願いすることになるでしょう。そうなった時、クリニックの名前が変わるのはよくないと考えたのです。ゆくゆくは「あそこへ行けば小児の内分泌疾患や炎症性腸疾患を診てもらえる」というブランドになって、引き継いでくれる人が出てきたらいいなと思っています。まだ始まったばかりですが、そうした将来のビジョンを描きながらやっています。
【望月貴博先生 略歴】
平成11年、大阪市立大学医学部を卒業。大阪市立総合医療センター小児内科、大阪警察病院小児科などを経て、29年2月に「希望の森 成長発達クリニック」を開業。日本小児科学会の小児科専門医・指導医、日本内分泌学会の内分泌代謝科専門医・指導医、日本消化管学会の胃腸科専門医・指導医などの資格を持つ。26年に日本夜尿症学会の優秀演題賞、29年には同学会の日本夜尿症研究最優秀論文賞を受賞。