地域社会に根ざし
人々に近づいた医療を実践したい…
「医療法人光陽会 小森内科」
院長 小森 忠光 先生
目指したのは
「ジェネラル・フィジシャン=GP」
――開院して29年が経ちました。
「開業3年前は、大阪市立桃山病院の内科医長で、主に感染症の診療に従事しておりました。それまでの約10年は、生活習慣病{心疾患、高血圧、糖尿病など}を主とした診療や研究が主だったので、ある意味桃山病院に転勤を命ぜられた事はカルチャーショックでした。しかし、ここでの経験はあとで述べますように、GPを目指す私にとってとても貴重な経験となったのです。
開業の転機となったのは、大阪市が市立医療機関の統廃合を決定した平成元年でした。この方針に基づいて勤務していた市立桃山病院は廃止されることになりました。その時、新しく開設される「大阪市立総合医療センター」(大阪市都島区)の内科部長就任についての打診があり、それを受けるかどうか迷いました。いろいろと考えた末に開業医になろうと決心しました。38歳の時です。
この決断にいたった理由は、自身の診療所を持ち、地域の方々に医療や健康管理面で気軽に相談して頂くことにより、地域医療に貢献したかったからです。いわゆるプライマリ・ケアの実践ですね。そうした分野に医師として取り組みたいと思いました。それはGP(ジェネラル・フィジシャン=総合内科医)を目指したいという私自身の夢を実現することでもありました」
開業医として取り組んだ「3つの方針」
――開業時に心がけられたことは?
「まず、3つの方針を決め、その実現を自らに課しました。具体的には、①病診連携②情報開示③生活習慣病の専門性の発揮、の3つです。
一つ目の病診連携ですが、個人的にはGPを目指していますが、とはいえ来院される患者様のすべての病状を把握できるわけではありません。診断した結果、入院や精密検査が必要と判断した時には、近隣にある開業の先生、比較的規模の大きな病院、さらには先進医療が実施できる医療機関に速やかに紹介しています。このように病診連携、診診連携は欠かすことはできず、開業医にとって重要な責務のひとつと考えています。緊密な連携は結果として早期診断、早期治療につながり医療過誤を未然に防ぐことになります。
二つ目の情報開示ですが、これはきわめて大事なことと考えます。これまで診療結果というのは一種のブラックボックスに閉じ込められ、医師の側が情報を独占していた傾向にあったからです。しかし、それでは医師=患者双方の信頼関係が構築できないと思い、問診や検査値などの診療情報をすべて公開することにしました。それを具体化したのが『わたしのカルテ』で、ここに血糖値や血圧、検査値などを書き込むことで患者さんはご自身の治療経過や検査結果を知ることになり、健康状態を継続的に把握できます。こうしたデータはインフォームドコンセントという面からも大切な役割を果たします。
この『わたしのカルテ』は開院した時から配布しています。今ではおくすり手帳を始めとして血圧手帳、血糖手帳など健康管理のための手帳がいくつもありますが、結果的にそうした取り組みに先駆けたものとなりました。
三つ目の生活習慣病の専門性発揮という点ですが、GPを目指す中で糖尿病や循環器疾患に対してはより専門性を高め、病院と連携しつつ自院で積極的に関わっていくという事を意味しています。
私が学んだ大阪市立大学医学部第二内科は糖尿病が専門でしたが、そこには循環器グループもあり、糖尿病患者様の心疾患、高血圧などの診療や研究を行っていました。また、脂質異常症や肥満にも詳しい先生がおられ、その知見にも接し生活習慣病をトータルに学ぶことができました。この事が生活習慣病に専門性を発揮できるおおきな理由になったかと思います。」
――感染症診療の経験が開業とどう関わるんですか?
「先ほど述べましたように、開業前に3年間感染症を学べる機会がありました。一般内科の開業医に来られる患者様の約半数近くが、発熱性疾患である風邪、気管支炎、肺炎、感染性胃腸炎、膀胱炎、腎盂腎炎などの感染症です。また、発熱の鑑別診断もとても大切です。さらに、糖尿病患者様が何らかの感染症を患った場合(いわゆるシックデイ)、インスリン投与や薬の服用をどうするのかが問題となります。このように生活習慣病と感染症が併発した時、特に注意が必要となってくる場合があるのです。感染症を習得しておく事はGPにとって不可欠なことなのです。」
地域の「かかりつけ医」として必要なものとは
――現在の体制をご紹介ください。
「私以外に看護師5人、受付医療事務員5人、検査技師2人、管理栄養士1人のスタッフを揃え、体制的に万全を期しています。診療も内科全般以外に予防接種外来(インフルエンザ、肺炎球菌などいろいろ)、栄養指導、禁煙外来、認知症外来、検査も開業医としてできるかぎりの事をするように心がけています。そうした対応が地域医療の実践に不可欠であり、GPのあり方と考えるからです。平成27年6月には電子カルテを導入し、診察時における患者様へのケアやサービスに活用できるほか、待ち時間の短縮にもつながりました」
――「かかりつけ医」に必要なものは何でしょうか?
「私が考えるかかりつけ医というのは、先ほどお話ししました3つの基本方針に加え、内科だけでなくその他の診療科さらには精神科など可能な限り幅広い心身面の相談に対応できる存在であることと考えています。問診を重ねる中で、心の悩みが病気の発症につながっていること、また、体調不良が生活の中で抱えるストレスが原因であることもしばしば経験されます。プライバシーにあまり深く踏み込むことはできませんが、来院された事情を問診の中から引きだし、フォローしていくことも大切です。それが医師と患者間の信頼関係を生むことに繋がっていくことと思います。
『診察して薬で病気を治療すればいい』という時代ではなくなった、ということではないでしょうか。専門医の養成も非常に大切なことです。一方で幅広い医療の相談に応えられる医師の存在も欠かせません。少なくとも私はそんな医師、かかりつけ医でありたいと思っています」
【 小森忠光先生の略歴】
昭和51年 大阪市立大学医学部卒業
昭和55年 大阪市立大学医学部大学院卒業
同年 大阪市立大学医学部第二内科勤務
昭和59年 大阪市立大学医学部第二内科助手
昭和61年 大阪市立桃山病院内科医長
平成元年 小森内科を開院(12月)
内科認定医
所属学会
日本内科学会 日本循環器学会
日本高血圧学会
日本内分泌学会
日本薬理学会