「認知症」~暮らしの中から考える
世界的には5,000万人を超えると言われる認知症ですが、わが国の患者数は約462万人、65歳以上の高齢者の7人に1人と推計(2015年1月厚生労働省発表)され、それを基に2025年には患者数が700万人前後、高齢者の5人に1人が認知症になると言われています。また、誰もが発症する可能性のある認知症。その治療のための特効薬や、日々の暮らしの中での予防はどこまで可能なのか…などについて考えてみました。
※理想は和食(写真はイメージです)
■予防薬の開発の現状
認知症は脳の細胞が壊れることによって記憶の抜け落ち(加齢による物忘れとは別です)などの症状が出て、日常生活に支障を生む病気です。しかし、病気であれば予防できるはず…と思いますが、現状はどうなのでしょうか。
認知症の大半を占めるのがアルツハイマー病ですが、同病に対しては1990年代以降にいくつかの薬が開発されています。ただ、それらは対症療法のレベルにとどまり、症状の進行を遅らせたものの、改善(治療)までにはつながりませんでした。
その後も世界各国の大学や研究所、有力な製薬企業が新薬開発に取り組んでいますが、なかなか思うような成果を生み出すまでにはいたっていません。それは認知症という病気の発症メカニズムが明らかではないからだ、と言われています。一方で、アメリカは「国家アルツハイマー病プロジェクト法」(2011年)を制定し、2025年までに予防と治療の開発を目指しています。
こうした動きは、いずれは認知症に対する医学的な治験及び知見を深めることにつながり、近い将来に特効薬開発が可能になるのではないか、という期待を抱かせます。
では視点を変えて、私たちの日常生活の中での認知症の予防対策はできないのでしょうか?
■「和食」と「マインド食」
認知症の予防でよく言われるのが運動ですが、体力が衰えつつある高齢者にとってはつらい課題であり、すべての人に奨励できるわけではありません。しかし、日々欠かせない食生活ではどうでしょうか。認知症の発症を促す一因となっているのは糖尿病や高血圧、肥満と言われていますが、逆に考えればこうした症例を改善すれば認知症の予防にも役立つと言うことになりそうです。
そうした中で注目されているのが日本食=和食、そしてマインド食です。
日本食は東北大学社会医学講座公衆衛生学分野の遠(とお)又(また)靖(やす)丈(たけ)講師を中心とした研究チームによるコホート研究*で、ふだんから和食を中心とした食生活をしている群(グループ)は、肉類などの動物性食品や脂質の高い乳製品を摂取している群より認知症の発症が少ないことが明らかになりました。日本食の内容は、魚・野菜・海草・漬物・納豆や豆腐などの大豆製品・キノコ・いも・果物などです。日本食は高血圧や糖尿病、脂質異常症の予防・改善にも効果があることが確かめられています。
一方、マインド食というのはシカゴのラッシュ大学メディカルセンターの研究者が発表したアルツハイマー病の発症リスクを低下させるという食事法です。
これは10種類の健康に良い食品を積極的にとり、5種類の健康に悪い食品をなるべく避けるというもので、具体的には、①キャベツ・ハクサイなどの葉菜類②ニンジン・ゴボウなどの根菜類③大豆・インゲンなどの豆類④小麦や玄米などの全粉穀物⑤植物オイル⑥魚⑦脂肪分の肉(鶏肉など)⑧ナッツ類⑨イチゴ・ラズベリーなどのベリー類⑩ワイン(とくにポリフェノールが豊富な赤)などが有用であるとしています。逆に好ましくないものとされているのは、①赤身肉②バターやマーガリン③チーズ④ケーキ・菓子類⑤ファストフード、などです。
日米の研究報告を見て思うのは、認知症を予防するための食事スタイルは糖尿病や高血圧、肥満を予防し、改善する食事療法と共通する部分が多いこと。しかも、その多くが私たちになじみの深い和食に重なっていることです。
認知症を予防するための今後の食生活のヒントとされてはいかがでしょうか。
◇コホート研究:対象となる病気に罹っていない人を大勢集め、将来にわたって長期間観察し追跡を続けることで生活習慣などを調査・観察する「観察研究」の方法のひとつ。