2017『目のすべて展』

 白内障の治療について

 

2017年度『目のすべて展』から

 

 目に関わる疾病には様々なものがありますが、加齢によって誰もが発症を避けられないのが白内障です。早ければ40代から自覚症状(かすんで見える、まぶしくなって明るいところでは見えにくい、モノが二重、三重に見えるなど)が出るようになり、80歳を超えるとほとんどの人が白内障に近い状態になると言われます。

白内障とはどのような病気なのか、その治療法などについて『目のすべて展』での大中誠之講師の特別講演からその現況をお伝えします。

 

 ■大阪・秋の恒例行事となった『目のすべて展』

最初に『目のすべて展』について簡単にご紹介します。

10月は「目の愛護デー月間」ですが、その関連イベントとして行われているのが大阪府眼科医会主催の『目のすべて展』です。今年も10月8~9日にブリーゼプラザ小ホール(大阪市北区)で開催され、男女を問わず中高年の方を中心に多くの人びとが会場を訪れました。

同展では専門の眼科医を招いたさまざまな目の疾病に関する特別講演のほか、アイバンクの紹介、日本ライトハウスによる盲導犬の話、眼鏡調整のアドバイス、目の健康相談、クイズ、眼科啓発のためのパネル展示、児童・生徒の絵画展など、目に関わる多彩な企画で構成され、日頃から目の健康についての関心を持つ人にとっては欠かせない行事となっています。今年はご自身が視覚障害者である桂福点さんによる落語もあり、話題を呼びました。

1974年からスタートした『目のすべて展』は大阪府民を対象としたもので44回目となり、毎年秋の恒例行事としてすっかり定着した感があり、それを心待ちにしている人も多いとか。ちなみに主催をしている大阪府眼科医会はいまから124年前の1893年に設立され、わが国でもっとも古い歴史を持つ眼科医会です。

 

 

■特別講演「白内障」

 

 関西医科大学眼科学教室

      大中 誠之先生

 

今年の特別講演のテーマとなったのは「白内障」「緑内障」「ドライアイ」でした。これらは目の症例として最近増えているものですが、中でも人びとの関心が高いのが個人差はあっても年を重ねると発症する可能性のある白内障です。これは「加齢性白内障」と呼ばれるものですが、10月8日の特別講演で大中先生は白内障の症状からと治療について豊富なデータや写真を交えながらわかりやすく、具体的に解説されました。以下に講演内容に沿う形でその要旨をまとめました。

 

≪目は「情報の窓口」≫

「外部からの情報の8割以上は目から入ってきます。パソコンやスマートフォン、タブレットなどの機器が普及した現在は9割以上とも言われています。まさに『目』は情報の窓口と言ってもいいと思います」

≪なぜ白内障になるのか≫

「目でモノを見る仕組みですが、外からの光は角膜(黒目)を通って水晶体に届き、フィルムの役目を果たす網膜で像を結びます」

「ところが加齢によって水晶体のたんぱく質が変性して濁ることがあります。これが白内障なんですね。水晶体が濁ると光がうまく通過できなくなり、乱反射した結果、鮮明な像が網膜に結ばれず、視力が低下するのです。原因となるのは加齢によるものがほとんどですが、それ以外に目の外傷、アトピー性皮膚炎、糖尿病を起因としたもの、ぶどう膜炎などがあります」

≪具体的な症状は?≫

「水晶体が白く濁るので視力は低下します。ただ、その濁りの症状は人それぞれで一定のものではありません。もっとも多い主訴はかすんで見えるということですね。あと、明るい場所では周囲がまぶしく見えてしまいます。また、一時的にですが近くが見えやすくなったり、ずっと使っていた眼鏡が合わなくなったりします」

≪手術について≫

「白内障で失明することはほとんどありませんが、それでも日常生活に支障が出るようであればそれに応じた対処が必要です。点眼薬で進行を遅らせることはできますが、ただ白内障を改善したり、視力を回復したりすることはできません」

「白内障が進行した場合は手術を行います」

「手術では濁った水晶体を超音波で砕き、それを取り除いた後に人工のレンズ(単焦点・多焦点)を入れます。単焦点は一定の距離にしかピントは合いませんが対象はくっきりと見えます。もちろん眼鏡をかければ見たい距離にピントが合います」。一方、多焦点では眼鏡をかけなくても手元と遠くが見えますが、ピントという点ではやや甘くなるので、レンズの選択については患者様の要望を踏まえて担当医師が適切に判断することになります」

 

≪術後の合併症≫

 「手術が成功してもまれにですが、後発白内障が発症するケースがあります。これは眼内レンズを入れると水晶体嚢の奥側(後(こう)嚢(のう))が濁るもので、術後に再び目がかすむものです」

≪術後のケア≫

「術後のリスクとしては感染症がありますので注意が必要です。定期的な受診のほか、2カ月程度は点眼が欠かせません。日常生活の面では早い時期での洗髪や洗顔も要注意ですね。自分で行うと感染のリスクがありますのでなるべく控えるのがいいでしょう。眼鏡に関しては術後、目の状態が安定する2~3カ月後に処方されたらいいと思います」

 

■入場者との質疑応答

 講演のあと、会場に来られた人びとと大中先生との間で白内障をめぐる質疑応答(Q&A)の時間が設けられました。会場からの質問はいずれも白内障が発症することへの不安、その後の対応についてのものがほとんどでした。そのいくつかを誌面で紹介します。

Q「白内障を手術する時期や判断は?」(女性)

A:これはケースバイケースですね。なぜなら個人差があるからです。白内障では視力が低下するのが主訴となっていますが、視力が1.0あるいは0.9であっても外からの光がまぶしいと感じる人がいます。ですから日常生活の中で「白内障かな?」と思われる症状を感じられた時には医師に相談するようにしてください。

Q「目の前を虫のようなものが飛んでいることを感じるのですが」(男性)

A:飛蚊症だと思います。これは目の奥の硝子体という部分が加齢によって水に近くなり、網膜から剥がれ落ちることで生じるもので白内障とは関係がありません。

Q「後発白内障についてですが、予防は可能でしょうか」(男性)

A:はっきり申し上げて予防は難しいと思います。後発白内障は白内障手術後の合併症のひとつです。眼内レンズを入れる水晶体嚢の奥(後嚢)が濁り、再び目がかすんでくるのですが予防は困難です。発症した場合にはレーザーなどで濁りを除去する処置が一般的です。これは入院することなく外来で可能です。

Q「漢字の『二』が時々『一』に見えたりします。これも白内障によるものですか?」(男

性)

A:片目か両目でもそう見えるのかどうかにもよるのですが、乱視の可能性が高いかもしれませんね。しかし白内障により乱視が出ることもあります。二重、三重に見えるのは白内障の主な症状のひとつですから、受診されたほうがいいかもしれません」

Q「白内障は両眼が同時になるんですか?」(女性)

A:片眼だけ白内障が進行することもありますが、通常は両眼とも同じように白内障が進みます。

Q「眼内レンズを入れるとして単焦点と多焦点の使い分けはあるのでしょうか?」(女性)

A:近くで細かい作業をする機会が多い人には多焦点レンズはお勧めしません。例えば趣味で読書や編み物をよくする人は単焦点レンズがベターですね。手術後に眼鏡をかけたくない人は多焦点レンズを考えてもいいでしょう。いずれにしても主治医とよく相談されたらいいと思います」

 

このほか、白内障の手術費用、多焦点レンズの是非などの質問が寄せられましたが、大中先生は回答可能な範囲で誠実に答えられました。

また、患者さんが納得のいく治療法を選択することができるように治療の進行状況、次の段階の治療選択などについて「セカンド・オピニオン」の重要性を強調されました。それを通じて症状や治療への不安を自らが納得し、解消することができるからです。白内障に関する活発なやりとりは目の健康に対する意識の高さ、関心の深さを反映するものでもあったと言えます。

最後に「白内障になって一度水晶体が濁ると、残念ですが若い時のような健康な目、モノがくっきりと見える状態には戻りません。それはしっかりと認識されたほうがいいと思います」と述べられましたが、目の健康を考えるうえでこれはきわめて重い言葉であるように感じました。

 

 【大中誠之先生のプロフィール】

 

2002年に関西医科大学医学部を卒業。

2010年に同大学大学院医学研究科を修了したのち、

米のジョンズ・ホプキンス大学ウィルマー眼科研究所に留学。

2017年に関西医科大学眼科学講座の講師となる。