心を通わせる医療連携で、
患者さん本位の全人的医療を推進
社会福祉法人 恩賜財団
大阪府野江病院
三嶋 理晃 院長
地域医療支援病院、大阪府がん診療拠点病院、そして一般急性期病院としても充実の医療体制を誇る「社会福祉法人 恩賜財団 大阪府済生会野江病院」。医療・介護・生活支援を一体的に提供する医療と福祉の総合センター「野江医療福祉センター」の基幹病院として、独自の地域密着スタイルを確立。積極的に多様な取り組みを行っています。三嶋理晃院長に近況を詳しく伺いました。
明治天皇の「済生勅語」の
使命を担い、地域に尽くす
―――野江病院を中心に特別養護老人ホーム、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所、看護専門学校等が連携し、地域の方々の暮らしをしっかり支えておられますね。
はい、当院は社会福祉法人恩賜財団済生会が設立した医療・介護・介護予防・生活支援を一体的に提供する「野江医療福祉センター」の中核を担う医療機関という位置付けです。地域の方々の健康面のみならず、それぞれの心理や経済事情なども十分理解した上で医療支援を行えるのが強みですね。済生会は、明治天皇の「済生勅語」に則った取り組みを継続的に行っており、生活保護受給者、経済的困窮者等を対象に医療費を無料・減額する「無料低額診療事業」や、健康診断及びワクチン接種を行う「なでしこプラン」では、全国で延べ200万人以上の実績(2016年)があります。当院の理念・遂行指針として「患者さん本位の、心温まる全人的医療をめざす」「地域の方々の健康維持に貢献し、信頼される病院をめざす」「医療人としての誇りと責任をもって、質の高い専門的医療の向上に努める」「病院経営の健全・安定化と、職員の福利厚生の向上に努める」ことを推し進めています。
―――急性期病院、大阪がん診療拠点病院としての実績は?
城東区・旭区・鶴見区内で唯一の400床以上の一般急性期病院として、充実した救急医療体制のもと、高いレベルの急性期医療を展開しています。現在の診療科数は30科。二次救急病院としての救急車受入れは年間約6,000台、救急隊の受入れ内訳は城東区・旭区・鶴見区の3区のみで約75%を占めています。年間手術件数は4,000件以上で増加傾向にあり、緊急手術を要するものが多いですね。新入院患者数は、最近、初めて月900人以上を記録しました。また、がん診療に関しては毎年約900以上の登録症例があります。診断後、精神面のケアを行いつつ治療すれば予後が良くなるという報告があるので、終末期の緩和ケア以外に、治療中の緩和ケアを医師・看護師・臨床心理士などが積極的に行っています。
センター機能の充実をで、
受診・治療がよりスムーズに
―――センター機能の充実が、患者さまやスタッフにも好評のようですね。
より利用しやすいように様々な工夫をしています。従来の脳卒中センター、創傷治癒センター、心臓・血管センター、無菌治療センターに加え、昨年から消化器センター、呼吸器センターを新設しました。これまでの専門分野ごとの診察・医療行為から、他の診療科や看護師・薬剤師等のスタッフとの連携を密にして対応すべき病気が増えてきたためです。さらに、それぞれのセンターのミッションを明確にすることに注力しました。各診療科を縦軸、センターを横軸とする、漏れのないシームレスという概念のもとに、迅速かつ均等に、専門性の高い医療の提供が可能になりました。
また、今年1月からは4ブロックからなる外来において、センターなど、特に連携が必要な診療科を同じブロック内に再配置しました。各ブロックを4つの色分けで院内表示することで、見た目にもわかりやすくなり、好評です。来院される方を迷わせることなく誘導できるので、患者さんにとっても安心感が増したと思います。また、スタッフも患者さんをスムーズに振り分けられ、医師も必要な連携がしやすいなど、多くのメリットが享受できています。
専用端末で画像を確認できる
オンコール体制の強化
―――当直医師に専門外の受診依頼があった場合、自宅で待機する専門医(オンコール医師)からアドバイスを受けたり、必要に応じて各専門医が来院して処置を行う「オンコール体制」を強化されたそうですね?
はい。まずその前提として、当院のような400床規模の病院の場合、専門医が連日当直するのが難しいという現実があります。救急の患者さんが搬送されてきた時、当直医が専門外で、しかも経験の少ない若い医師であれば、誰でも不安になるでしょう。これまで実施していたオンコール体制では、待機医師に電話で状況を説明し、必要があれば来てもらうという形をとっていましたが、医師に過剰な負担がかかるという問題がありました。これに対して、特に脳卒中関連疾患では、オンコール医師が画像を自宅で見ることができれば、かなりの部分、自宅で診断ができるという意見がありました。そこで、個人情報の扱いを法的にクリアするライセンスシステムの形でMRIやCTの鮮明な画像データをオンコール医師宅に送信し、自宅に居て診察できるネットワークを新たに構築・導入しました。オンコール医師の判断で「これは帰宅してもらっても大丈夫」「入院手続きをしておけば、明日診察できますよ」など、適切な対応が可能になりました。こうしたオンコール体制の充実で、夜間救急の応需率は飛躍的に向上。救急隊や周囲の診療所などからも、高い評価をいただいています。
地元医療機関との共存共栄で、 地域に貢献
―――昨年再編された地域医療連携課と、登録医制度についてお聞かせください。
地域医療連携業務・入院支援業務・病床管理業務・退院調整業務を一つに統合したのが「地域医療連携課」です。専任スタッフが地域の医療機関や介護関連施設と密接な連携を図り、地域包括ケアシステムにおける当院の役割を遂行する役割を特化させています。より迅速に、効率よく、患者さんの情報に基づいて適正な措置を講じるためには、近隣の診療所や病院の先生方との緊密な医療連携網の構築が必要です。特に、登録医制度は、互恵関係の強化に欠かせないものです。当院では現在、登録医は約350人で、城東区・鶴見区・旭区の3区では、90%以上の医師に登録していただいています。当院ロビーには、地元の登録医紹介スペースを設けており、登録医の方々のプロフィールを記したパンフレットを手に取ることができます。当院だけでなく、地域一体となって役割分担を行い、患者さんのメリットにつながる地域医療の理想を追求していこうということです。
具体的には、紹介で当院に転院されてきた患者さんを、かかりつけ医の病院・診療所へなるべく早くお戻しするようにしています。逆紹介率が高いことは、互恵関係を深めるための重要な要素です。また、訪問看護などの診療所が対応できない部分を、当院がサポートすることもあります。この際、訪問看護ステーション・居宅介護支援事業所・特別養護老人ホームなどを持つ強みを発揮しています。この近辺は回復期病棟のある病院や介護センターも多いのですが、競合せずに互恵関係が維持できています。
―――今後の課題は何でしょうか?
もちろん当院は、高齢者医療に関して多角的に取り組んでいます。それに加えて、第1に、周産期医療、小児科医療、成人への移行期医療、先制医療など、若い命を紡ぐことにより注力していきたいですね。例えば、幼い頃ぜんそくを患った方が大人になった時、病院側はどうやって経緯を見守り、治療を施していくのかなどが「移行期医療」です。また、妊婦さんの過度なダイエットにより栄養飢餓状態で生まれてくる子どもは将来糖尿病を発症しやすいと報告されていますが、その発症を未然に防ぐことが、「先制医療」の意味です。第2に、革新的な進歩を遂げているがんの免疫療法、緩和ケアにも一層取り組んでいきます。第3に、生活習慣病の克服に全科を挙げて取り組んでいきます。
また、患者さんや地域の医療機関の方々に貢献する喜びと、そこで働く環境の健全化・安定化は社会貢献に対するモチベーションの向上・維持に欠かせないものです。そこで、当院の医師やスタッフの福利厚生面にも継続して力を入れていきます。今後も地域完結型医療の一翼を担う地域医療支援病院として、努力を続けていきます。
信条は「医療人として大切な2つの資質(ダブルS: サービスとサイエンス)を涵養すること」です。サービスとは「患者さんと同じ目線で、自分の持てる最大限の技量を発揮して、患者さんの快癒に努めること」であり、医療人として根本的に大切な素養です。サイエンスとは「医療を科学的な視点でみつめること」であり、新しい医療の創生、後進の育成などに不可欠のものです。
三嶋理晃 院長 略歴
1977年 京都大学医学部卒。1983 年同大学院修了。1983年 兵庫県県立塚口病院呼吸器科医長。1986年 京都大学胸部疾患研究所講師。1992年 カナダ・マギール大学ミーキンス・クリスティー研究所客員研究員。2001年-2016年 京都大学大学院医学研究科・呼吸器内科学 教授、その間病院長、理事・副学長を併任、2016年 大阪府済生会野江病院病院長に就任。
医学博士、京都大学名誉教授、日本呼吸器財団理事長、大阪府病院協会理事、大阪府がん協会参与。