シリーズ特別企画Vol.4 「移植医療の、昨日・今日・明日」

 

ダイナミックに進む医学・医療
研究者は、基礎研究だけでなくて、治療の入口まで

■上本 伸二先生〈京都大学医学研究科外科学講座教授〈肝胆膵・移植外科分野〉
■髙橋 政代先生〈理化学研究所 多細胞システム形成研究センター 
 網膜再生医療研究開発プロジェクト プロジェクトリーダー〉

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世界の注目を浴びている、「iPS細胞による臨床研究の先頭を走る」高橋政代先生、肝胆膵の移植治療の第一人者の上本伸二先生。このお二人に、「移植医療の、昨日・今日・明日」のテーマでお話いただきました。

――髙橋先生、他家移植による治験のスケジュールはどのように。

髙橋 まず京都大学iPS細胞研究所 CiRA(サイラ)のストックによる網膜色素上皮シートの他家移植臨床研究をすると同時に、バラバラの細胞浮遊液移植の治験は治験で、以前からの予定通り今企業が取り組んで準備が進んでいます。臨床研究と治験を同時並行、同時にやります。「シート」と「浮遊液」との違いとか、いろいろなことがありますので。将来的には他家移植ですと年間1000人分ぐらい細胞が作れます。治療費が1000分の1ぐらいになります。
あとは規制、手術の仕組みの話で、コストは妥当なラインに下がってくると思います。

――新しいことをやるときに、一般の医師や患者さんとか国民のみなさんの理解がないとうまくいかないと聞いていますが。

髙橋 今、日本でものすごいレベルでやっていますが、何か事故や具合の悪いことは、常に起こる可能性はあります。そういうときに「ほら、なにか起こった!再生医療はダメだ!」と全否定するのでなく、これだけ効果があったのだからこのリスクは小さいという考え方をしていただきたいと思います。そういう考えが日本にはまだ育っていないのではないでしょうか。ぜひそういうことをメディアでお願いしたいと思います。

――再生医療をはじめ、いま医学・医療がダイナミックに進んでいますが。

髙橋 ほんとうに変換期に来ているかなあと感じます。薬事法の改正で、日本がはじめて治療開発の舞台になって、世界の企業が、いま日本に向かっています。
こんな時だからこそ日本の研究者は、上からの研究費を期待するだけでなく、自分でつくる努力をしなければならないのではないかと感じます。海外の、特にアメリカのPh.D.( Doctor of Philosophy)の人を見るとびっくりするのは、みんなPh.D.が基礎研究だけでなくて治療の入口までやって、それでベンチャー企業をつくるのが研究者の一つのゴールになっていることです。そんな人ばかりではありませんが、それで大金持ちになる人もけっこういます。そういうのが日本で見えていません。

上本 難しいですね。

髙橋 神戸では今度、眼科の独立病院や研究所からなるアイセンターをつくるのですが、そこでいろんなことを少し実験的にしたいと思っています。再生医療を成功させるために、大学病院ではできないような臨床システムを試してみたいと思っています。


――アイセンターはいつごろできる予定ですか。

髙橋 ビル自体は、2年半か3年後なのですが、中身をいまどんどん作っているところです。夢はもうどんどんふくらんで。
できる前はいちばん楽しいときです。実験も、研究もそうですね。構想を練っているときがいちばん楽しい。実際やってみるとそううまくはいかない。

上本 実際やってみたら、経営が大変かもしれませんね。

――ありがとうございました。

上本 伸二 先生 先生略歴
昭和31年生まれ。
京都大学医学部卒。
同研究科教授などを経て、
平成26年同研究科長、医学部長。
生体肝移植をはじめ、多くの臓器移植手術を手がける。

髙橋 政代 先生 先生略歴
昭和36年生まれ。
京都大学医学部卒。眼科臨床医、
京都大学助教授などを経て、
平成18年から理化学研究所で網膜再生研究のチームリーダー。

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写真:産経新聞提供