モニターを見て、頭の中で立体的に組み立て、その中で手を動かす難しさ
瀧口修司先生〈大阪大学医学部付属病院消化器外科講師〉
腹腔鏡による胃がんの手術は、初期胃がんからさらに進行した胃がんに至るまで、患者さんの体に負担の少ない手術として、ますます浸透しています。しかし開腹手術から腹腔鏡手術への過渡期でもあるため、医療機関や医師によっては、治療に違いがあります。腹腔鏡による胃がん手術のエキスパートとして知られる瀧口修司先生にうかがいました。
腹腔鏡手術は、「任天堂サージェリー」?
――腹腔鏡手術の一番の難しさはどこにあるのですか。
瀧口 平面画像をみて、頭の中で立体的に組み立て、その中で手を動かさなければいけないことです。モニターに映っているのは平面画像で、実際やってるのは空間の三次元です。3Dのモニターの開発も進められていますが、まだまだ開発段階です。
モニターには、平面で視点を変えたり、あるいは部分を拡大して視る。それを頭の中で三次元に置き換えて、なおかつこちらで動かす。手も、やはり平面で映る|モニター操作の得意な人、苦手な人がやはり出てきます。
――手が器用とかいうのはよく分かりますが、二次元と三次元との間を行ったり来たりする、それが得意不得意というのは。
瀧口 ある程度、生まれてから獲得するものがあるのか、それとも生まれ持って能力があるのか、きちんとした研究はありませんが、個人差があるのは間違いありません。
普通は目の前にものがあって、手を動かして、その手でできあがったものが、最終的にできあがったものです。ところが腹腔鏡などの手術では、モニターの中で操作している錯覚の中にありながら、別の場所で道具が動いている状況ですから、テレビモニターが無い時代の人間には必要がなかった能力です。鳥が空を飛ぶ、魚が泳ぐなどは、これまで、自然が生物に求めていた能力です。
一方、二次元と三次元との間を行ったり来たりする能力は、人間が作り出した道具が、人間に求める能力です。
この手術が出始めた頃にアメリカで「任天堂サージェリー」と言われました。
手元で操作したものが、テレビの中で動いて、進んで行くというところが、テレビゲームのような手術だという表現です。腹腔鏡手術の本質を突いてるかも知れません。
そういう能力は、生きて行く上では必要ないので、個人差が出るのか、経験が出るのかなとは思います。しかしトレーニングの努力さえすれば、できない人はいません。
走れない人はいないというのと一緒です。研修期間の短くて済む人、研修に時間のかかる人がいるのは確かですが。
――実際の手術時間はどれくらいかかるのですか。
瀧口 手術の状況によりますが、幽門側胃切除といわれるもので2時間半から3時間半です。
開腹の胃の手術でもだいたい2時間から3時間ぐらいですから、開腹に要する時間プラス30分から1時間の余分の時間がかかります。
――そのレベルに達するのに、トレーニング期間はどれぐらいかかりますか。
瀧口 幽門側胃切除を3時間ぐらいで終えてもらおうと思うと、5年、10年はかかります。医局で4年、あとは実地で5、6年かかります。
――次回へ続きます。